花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
恋愛が嫌いなら、なんでそんな言い方をするの?


好きだと告げたら、きっとひどい言葉と冷たい態度で置き去りにするんでしょう?


笠戸さんへの冷静な対応を思い出して、心の中が凍りつく。

凛が以前話していたように、女性に執着せず、向けられる好意すら厭うのだろう。


なのにどうして、こんなチグハグな物言いをするの?

 
恋が叶わないなら、せめて自分が納得するまで好きでいたい。


お願いだからそっとしておいて。


恋愛対象じゃないから結婚しようなんて、最悪な提案をしないで。


「そもそも選択肢はないと思うが」


やけに自信のある態度に違和感を覚えたとき、彼のスーツのポケットから振動音が響いた。

顎から指を外した葵さんがスマートフォンを取り出す。

そしてなにかを確認して、ニッと口角を上げる。


「仕事が早いな」


視線を私に戻した彼に、液晶画面を見せられた。


【葵財閥御曹司、真剣交際の恋人の存在を肯定。結婚間近との報告あり】


目にした文字に目を見開くと、スマートフォンを持ったまま長い腕で抱きしめてくる。

こんな状況なのに、ふわりと香る香りが切なくて胸が痛い。


「ネットニュースの配信元には真実だと肯定しておいた。どうする? 撤回して、啖呵を切った後輩の前で再びみっともない姿を晒すか?」


「どうして、そんな勝手な真似……!」


「逢花がほしいからに決まっている」


悪びれもせずに口にするこの人は、本当にあの夜に出会った彼だろうか?
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