花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「俺には逢花が必要だ」


視線や仕草は甘いのに、放たれる言葉は残酷で容赦なく胸を抉る。

これが彼の恋心からの願いならよかったのに。


「あの夜の願いを、これからもずっと叶えさせてくれないか」


真摯な目で見据えられ、心が揺れ動く。

この人は、人心を掴むのがとても上手い。


『……必要と、されたい』


あの日の自分の声が耳に響いた気がした。

壊れそうな心を抱えた私を抱きしめて救い、小さな願望を受け入れてくれた人。

条件つきとはいえ、私をここまで必要としてくれる人はもう現れないだろう。

しかも今の私が抱える問題をすべて解決してくれるオマケつき。

想いを隠し、捨てるように努力して、嘘をつき続ければいいだけ。

そうすれば契約が続く限り、そばにいられる。


「……わかり、ました」


承諾を伝えると一瞬だけ葵さんは目を見開いて、すぐにふわりと相好を崩した。

抱擁を解き、手を差し出される。


「契約成立だ、これからよろしく」


ビジネスライクな発言と態度に、心が小さく痛んだ。


こんな些細な出来事に一喜一憂しちゃダメよ。


自分を戒め、誤魔化すように大きな手を恐る恐る握り返す。

失恋が確定した瞬間だった。
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