花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「逢花」


突如握った手を引かれ、バランスを崩した私の腰を彼がもう片方の腕で支える。

すぐに強く唇を押しつけられ、角度を変えて執拗に深いキスを仕掛けてくる。

唇が擦れ合う感覚に思わず吐息が漏れると、彼の舌先が私の口腔内に潜り込む。


「今日から俺のものだ。忘れるなよ?」


唇を軽く触れ合わせながら宣言され、至近距離で見つめ返すしかできない。

ドクドクと鼓動が派手な音を立て続ける。


やめて、期待させる言い方をしないで。


心が悲鳴を上げるけれど、塞がれた唇では反論もできないし、足に力が入らない。

さらに葵さんは、私の腕を自分の首に回させ、抱え上げた。


「きゃっ……」


突然高くなった視界に小さな悲鳴を上げると、横抱きにした私の額に口づけた。


「しっかりつかまって」


人を従わせるのに長け、傲慢とも思える言動や行動を重ねるのに、細やかな心配りは忘れないなんて、ますます想いが深まって悩ましい。


「俺がどれだけ逢花を必要としているか、教えたい」


私を運びながら低い声でささやいた彼が向かった先は見覚えのある寝室だった。

そっと真っ白なシーツの上に寝かされると、すぐに彼が覆いかぶさってくる。


「このドレス、よく似合っているが胸元が少し空きすぎじゃないか? 俺以外に見せたくない」


そう言って、鎖骨付近に口づけを落とした葵さんは、器用に私の背中に指を這わせてファスナーを下ろしていく。
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