花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
7.悲しい婚姻準備
鼻をくすぐる美味しそうな食べ物の匂いで目が覚めた。

触れるシーツの肌触りと香りに違和感を覚え、数回瞬きを繰り返す。

目にかかる髪を払おうと持ち上げた腕に、幾つか散る赤い印に一気に状況を把握した。


ベッドに依玖さんの姿はなく、室内は薄暗かった。


今は、何時? 


体にはバスローブが着せられ、綺麗になっていた。

もしやまた、お風呂に入れてもらったのかと頬が熱くなる。

ゆっくりと起き上がり、周囲を見回す。

なぜか心細くなり、ギュッとバスローブの襟元を握りしめた。


「起きていたのか?」


ドアが開くと同時に光が差し込み、声をかけられた。


「ルームサービスが届いたから、そろそろ起こそうと……どうした?」


ベッドに近づいてきた依玖さんが腰をかがめ、私の目を覗き込む。

至近距離に迫る整いすぎた容貌には慣れる気がしない。


「どこか痛む?」


「ひとり、だったので……」


質問の正しい答えじゃない、むき出しの感情をうっかり零し、慌てて口を押える。


なにを甘えているの。


恋人同士のような振る舞いや睦言を口にしたらダメでしょう。


失態と彼の反応が怖くてうつむくと、ふわりと体が温もりに包まれた。


「無理をさせたし、よく眠っていたから……ひとりにして悪い。不安にさせたな」


胸元に頭を抱え込まれ、髪を撫でる彼に目を見張った。
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