花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「すみませ……ご、ごめんね」


「じゃあお仕置に、口を開けて」


ニッと口角を上げる彼に訝しみつつ、小さく口を開けた。

すると少し身を乗り出した彼が私の口に、フォークに刺した茹で野菜を入れる。


「美味い?」


予想外の行為に驚きながらも、首を縦に振ると依玖さんが目元を柔らかく緩めた。


まさか食べさせてもらうなんて……。


心が千々に乱れ、真正面の依玖さんを直視できず、料理の味を堪能できない。

どう振舞えば正しいのか、答えが見つからない。


「明日の日曜日、引っ越しの準備をしたい」


妙な緊張感が漂う食事を終えて、温かいお茶を口にしていると依玖さんが切り出した。


「ここをチェックアウトするの?」


敬語に気をつけながら尋ねると、彼が首を横に振る。


「いや、逢花の部屋を引き払う」


「えっ?」


「夫婦が同居するのは当然だろ。今、俺が住んでいるマンションに越してきて」


事も無げに言われて驚きを隠せない。


「勤務先にも近いから心配するな。そのうち勤務地は変わるが距離も問題ないだろう」


困惑する私とは対照的に、彼は自身が所有するほかのマンションについての説明を続ける。

すべて都内の一等地に建つ、有名な高級マンションで財力を改めて見せつけられた気がした。
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