花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「明日までに、記入してほしい」


一旦席を立ち、すぐ近くの棚に置いてあったタブレットと紙を手に戻ってくる。


「婚姻届だ。まずは逢花のご両親に挨拶とお願いに伺う。うちの両親には俺から証人欄の件も含めて話をしておくから」


さらに私の両親への挨拶が済み、必要書類が整い次第提出すると宣言され、混乱する。


「ちょっと、待って……! 引っ越し、入籍って、早すぎない……?」


数時間前に求婚されたばかりなのに、これほど急ぐ必要があるの?


「取引には契約書が必須だろう。婚姻届は契約書類代わりだ。俺はすでに記入している」


事務的な口調に心がギシリと嫌な音を立てた。


「逢花を俺のものにするのに、早いも遅いもない」


甘さの欠片もない視線に、今さらながらこの結婚の意味を思い知る。

お互いのメリットや条件が最優先、一般的な考えや振る舞いは不要で、従うしかない。

黙り込む私に依玖さんは説明を続ける。

仕事の指示のように、今後の予定が記載されたタブレットの画面を見せられ、うなずくしかできなかった。

さらにお互いの実家の連絡先等を交換した。

退去手続きや、立ち合い等は依玖さんが手配してくれるという。

大きな荷物類は月曜日、私の勤務中に運び出すそうだ。


「明日中に荷造りを済ませてほしい。月曜の退社後、迎えに行く」


そのまま新居となるマンションに向かう予定らしい。

怒涛の展開に動揺が収まらずにいると、明日は早いからもう休むようにと言われ、小さく首を縦に振った。
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