花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「言い忘れていたが、ここでも新居でも寝室は一緒だ」


立ち上がり、器を片付け始めると、骨ばった長い指が私の手を緩く掴む。


「新居に逢花の部屋はあるが、寝具類はない。俺たちの条件を叶えるために」


真っすぐ私を見据える綺麗な二重の目は真剣だ。

義務として抱く、と言外に匂わせた宣言に咄嗟に反応できなかった。


「片付けはいいから、もう一度風呂に入って……体が冷えている」


皿を取り上げられ、軽く背中を押される。


「でも……」


「一緒に入浴する?」


耳元近くでささやかれ、慌てて腰を引く。


「今すぐ入ります!」


軽く頭を下げて踵を返し、隣に位置する洗面所へと駆け込んだ。

厳しい命令を下す一方で正確に私の動作や状態を把握している彼に驚きと嬉しさ、少しの恐れが交じる。

こんな不安定な感情のままで夫婦として成り立つのか、自信がない。

翌朝早く、彼の腕の中で目覚めた。

寝起きの私を甘やかすように前髪をかき上げ、額にキスを落とす。

啄むような口づけが少しずつ深くなり、鼓動が速まる私をからかうように全身に大きな手で触れる。


「おはよう、逢花」


相変わらず寝起きも完璧な依玖さんの胸元で、うつむいたまま挨拶を返す。


「俺の両親に結婚について話した」


「えっ!」


迅速すぎる行動に眠気が吹き飛ぶ。
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