花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
依玖さんの父親は言わずと知れた葵財閥トップである。

母親も自身の事業を立ち上げているのは有名な話だ。

反応が気になり、顔を上げて恐る恐る尋ねた。


「反対されなかった?」


「やっと身を固める気になったかと喜ばれた。証人の件も快諾されたが……」


不自然に言葉を切る様子が気になり、整った表情を窺うが黙ったままだ。


「どうかしたの……?」


「いや、まあ、なんとかなるだろ。逢花のご両親はずいぶん心配されていたが」


「は……い?」


さらりと告げられて瞬きを繰り返す。


私の両親?


「今日の午前中にご挨拶に伺うから準備をしてほしい」


「ち、ちょっと待ってください。両親って、まさか連絡を? いつの間に?」


焦る私とは対照的に、依玖さんは淡々と返答する。


「逢花が昨夜眠っている間に電話をした。俺の両親同様に俺がひとめ惚れをしたと伝えてある。反対はされていなかったぞ」


急展開にこめかみがズキズキと痛んだ。

心配性の両親には時間をかけて説明し、納得してもらうつもりだったのに。

ひと言の相談もなく事を進められて文句を言うべきなのか、契約結婚なのだから当然と納得すべきなのかわからない。


「そういうわけだから、出かける準備を」


冷静に促され、重大な事項に気づきハッとする。

急な宿泊のため手土産はおろか着替えもない。

その旨を話すと、手配してあると一蹴された。

抜かりのなさに舌を巻く。
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