花縁～契約妻は傲慢御曹司に求愛される～
依玖さんの段取りを、計画を、台無しにしているから？


話が、考えや価値観が、合わなさすぎるせい？


こういうときはどう対処すればいいのか、なにが悪いのか瞬時に判断できない。

重たい空気を感じながら、熱いコーヒーを少しだけ口にする。

タイトなスケジュールなのだし、早く食事を終えなければと焦れば焦るほどうまく食せない。

彼はすでに食事を終え、優雅にコーヒーを飲んでいる。

これ以上機嫌を損ねたくないと考えていると、彼のスマートフォンが着信を知らせた。


「どうぞ、出てください」


「悪い」


促すと彼は席を立ち、別の部屋へと移っていく。

広い背中を見送って、ため息をひとつ吐くと少しだけ気持ちが緩んだ。

夫となる人に緊張し、想いに蓋をして、肌を重ねるなんて前途多難すぎる。

なんとか朝食を食べ終え、彼が電話中なのを目の端で確認して洗面所で身支度を整えた。

悩みながら選んだのは淡いベージュの落ち着いたデザインの膝丈のワンピースだ。

それから寝室で手早く昨夜のドレス類などの荷物をまとめていると、着替えを済ませた彼が入ってきた。

今日は紺色のストライプ柄のスーツと深い紫のネクタイを身に着けていた。


「用意できた？」


「はい」


「ここにある荷物は後で運ぶ。行こう」


差し出された手をそっと握ると、よく似合っていると言われた。

車はエントランスに準備されているらしく、階下へと向かう。
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