花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「……そうですか。ありがとう、逢花さん。息子をよろしくお願いします」


「こちらこそ至らぬところばかりですが、どうぞよろしくお願いいたします」


軽く頭を下げる義父となる人に、急いで頭を下げ返す。


「もういいだろ、父さん。逢花、行こう」


依玖さんの声に顔を上げると、彼の父が笑みを浮かべていた。


「きちんと選んだようで、安心したよ」


「……当然です。逢花、こっちだ」


依玖さんに手を引かれる私を、彼の父が手を振って見送ってくれた。

失礼します、と挨拶を告げ歩き出すと、彼が大きな息を吐いた。


「悪い……来ないよう伝えたんだが」


朝食中にかかってきた電話は義父からで、ホテルを出る前に会いたいと言われたらしい。


「いいえ、ご挨拶できてよかったです。緊張でうまく話せなくてごめんなさい」


葵財閥のトップと言葉を交わし、しかも義父になるなんて信じられない。


「いや、完璧だったよ」


端的な返答に胸がくすぐったくなる。

ともに過ごす短い時間のなかで言葉数は多くないけれど、正直な気持ちを口にする人だと私なりに知った。

その後、彼の運転する車で実家へと向かう道中、両親について簡単な質問を受けた。

さすがと言うべきか、依玖さんはすでに我が家についての知識を頭に入れていた。

この短時間に様々な個人情報を収集できる葵家の力が恐ろしい。
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