花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「両親に会って挨拶してくださり、ありがとうございました」


「妻の両親に結婚の許可をいただくのは当然だろ」


帰りの車中で沈黙を破るように話しかけると、間髪入れずに返事が返ってきた。

昼食を一緒にと勧められたが、緊張と嘘をついている罪悪感で胸が詰まり、引っ越し準備があるからと急いで出てきた。

なにより両親の前でまるで唯一無二の恋人のように接してくる依玖さんの隣にいるのがつらかった。
 
こんな調子で夫婦生活をきちんと送れるのだろうか。


「婚姻届の証人欄も記載いただけて良かった」

つぶやく横顔を見つめてうなずく。

私の欄は昨夜入浴後に緊張しながらも記入して渡してある。

契約でも、愛されていなくても、妻になれると小さな幸せを噛みしめた私は救いようがない。


「本当にひとりで大丈夫か?」


「平気です。家具家電はお任せするし、力仕事もないから」


これから私の自宅に戻り、荷物をまとめる予定だがひとりで片付けたいと事前に伝えていた。

依玖さんの部屋に生活家電類は揃っているため、リサイクルや処分の手続きをお願いした。

しばらく渋面を浮かべていた彼だが最終的には納得してくれてホッとした。

ひとりになって、現状を整理したかった。
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