花縁～契約妻は傲慢御曹司に求愛される～
案内された自室は八畳ほどの広さで、ふたつの窓には木製のブラインドがかけられていた。

木製のドレッサーと小さめのソファ、大きめのウオークインクローゼットがあった。

クローゼットには収納棚があり、以前依玖さんが購入してくれた衣類がかけられ、さらにハイブランドのバッグや小物類まで揃えてあった。


「ここにあるものはすべて好きに使ってほしい」


尋ねる前に言われて、気分を害するかと思案しつつも礼と率直な気持ちを伝えた。


「部屋を、家具を調えてくれてありがとう。嬉しいけれど、こんなに揃えてもらうのは申し訳ないし、使いこなせないからもったいないわ」


「逢花は面白いな」


予想に反して、彼は綺麗な目を細めて私の頬を空いている手で撫でた。

一気に高鳴る鼓動を誤魔化すように、慌てて口を開く。


「す、少し片付けていい？」


「ああ。だがその前に食事にしよう」


そう言って、彼は再び私の手を引き、ダイニングルームへと向かった。


「用意してくれていたの？」


ダイニングテーブルの上に置かれた大きな紙袋から、彼がお弁当箱を幾つか出すのを見て驚く。

そういえばこの部屋に入るときに彼は片手にこの紙袋を提げていた。


「今日は引っ越しだし、家で食べたほうがいいと思ったんだ」


「本当に、色々考えてくれてありがとう。ごめんなさい、なにも準備できていなくて」


「気にするな」


ふわりと口元を緩める依玖さんの優しさが、胸に温かく染み込んでいく。

弁当は季節の野菜がふんだんに使われ、見た目も美しく美味だった。

こんな穏やかな時間をずっと過ごせたらと本気で願いそうになったとき、話しかけられた。
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