別れさせ屋に依頼をした私の結末
そうして、階段の折り返し地点まで来たとき、ガンッと屋上のドアが閉まる音がした。

顔を上げると、追ってきたのは寺尾のほう。

彼は立ち止まった私のそばに来て、突然、腕を掴んでくる。

「“行くな”って……言いたいんだけど」

ギュッと手に力を入れられると、胸の奥が痛いくらいにうずく。

「……行くの?」

言いたいと言ったくせに、控えめな言葉でたずねられた。

その表情には昨日の力強さは見当たらない。眉間を寄せた、すがるような瞳で見つめられている。

「……。行く」

そう答えてから腕を引くと、寺尾は何かをこらえるように目を閉じた。

話が途切れたことで、私は迷いながらもまた階段を降りようとしたのだけれど、「俺っ」と声をかけられ、再び立ち止まる。

「最近は、彼氏から奪ってやるつもりで一緒にいたんだよ」

「……」

寺尾の気持ちに何も気づいていない状態だったら、きっと、私は驚いて、笑い飛ばすような言葉で逃げていたのかもしれない。

だけど、

「だから、松山のこと待ってる」

私は知っていた。

いつから想われていたのか聞いてしまったし、昨日、どれだけ想われているのかも感じ取っている。

笑い飛ばすような真似は、できない。
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