別れさせ屋に依頼をした私の結末
「水城さん」
突然、背後から知らない声に名前を呼ばれた。
もしかして……と警戒し、振り返られずにいると、静かな空間の中、一歩、二歩、と近づいてくる足音が聞こえ始める。
それ以上距離を詰められたくなかった私は、慌てて振り向いた。
「ま、まだ! 頼むかどうか悩ん──」
悩んでいるので今日のところは帰ります。そう言って逃げ出すつもりでいたのだけれど、目に映った男子生徒の姿にあ然とする。
声をかけてきたのは、あやしい商売なんて絶対にしなさそうな人だったから。
「……えっと、相良(さがら)くん……だっけ?」
別れさせ屋ではないとわかってホッとした私は、背負うつもりでいたリュックを、もう一度テーブルに置く。
相良くんは隣のクラスの男子──C組の学級代表をしている人。
身長が高くて細身の体。極端に猫背で、顔の上半分はいつも長い前髪で隠されている。
目立つタイプではないのだけれど、私はこの人のことを以前から知っていた。
親友がD組の学級代表をしている女子ということもあって、代表委員会がある放課後に見かける機会が多かったのだ。
存在を知ってはいるが、クラスが違うので一度も話したことがない。どうして声をかけてきたのだろう?