別れさせ屋に依頼をした私の結末
Card 09 ♠︎ イチニチイチキス
頬にあたったシャツからの洗濯の匂いと、微かに伝わってくる彼の体温。
近すぎる距離に戸惑うが、頭を引き寄せていた手が離れ、なだめるようにもう一度置かれたとき、私の目は溢れるようにして涙を浮かべてしまった。
――どれくらいの間、そうしていたのだろう。
ひと気がない廊下で、彼は私が落ち着くまで胸を貸してくれていた。
泣き止むと、彼は「座ろう」と言って、すぐそばの階段に腰を下ろした。
「――そっか。……聞けなかったんだな」
昨日メッセージを送ったところから、さっきの教室でのやり取りまで。美奈との間に起きたことを全て話すと、静かに聞いてくれていたキングは足の上でひじをついて、「んー」とつぶやいた。
「どうすっかなぁ~」
これからどう動くか考えているみたい。
その横顔を見る私は、
「あのさ」
スカートをぎゅっと掴み、意を決して声をかけた。
「もういいよ。依頼するの、やめる」
キングに説明している途中から、この気持ちが生まれていた。
「なんで?」
「“親友”だと思ってたのは……私だけだったのかもしれなくて。美奈からしたら、私って……そこまでの存在じゃないみたいだし」
首を傾げたキングに、理由を言う。
恥ずかしかった。一方的に“親友”だと思っていた自分が。
「それなのに、こんな依頼までしたら……余計に嫌われちゃう」
情けなく笑うと、彼ははぁと息をつき、
「いたっ……」
うつむく私に、軽いデコピンをしてきた。