別れさせ屋に依頼をした私の結末
「キ、キング……!」
声で誰なのかはすぐにわかっていた。
けれど、真後ろに立たれていると思っていなかったので、想定した距離よりも近くて、思わずのけぞってしまった。
彼は靴箱の扉をおさえたまま、不愛想な表情で私を見下ろす。
「俺の記憶が間違ってなければ、今日のキスってまだしてないよね?」
「……っ!? ちょっと! こんなところでそんな話をしないで!」
ここは、全生徒が帰宅時には必ず立ち寄る正面玄関のフロア。
私は日直の仕事があったから、他の生徒よりも来るのが少し遅れたけれど、放課後を迎えてからはそんなに時間も経っていない。
この後も、まだまだ靴を履き替えにくる生徒がいるはずだ。
「キス」という言葉を恥ずかしげもなく口にしたキングに焦って、慌てて周りを見回す。
幸い、廊下の向こうから生徒たちの声がするけれど、今この付近には誰もいないみたい。
「昼も来なかったし。避けてんの?」
「別に避けているわけじゃ……」
昼の話をされて、昨日の帰り際を思い出す。
“昼休み、教室で居づらかったら図書室にでも来れば? 昼ならこの格好をする時間もあるから一緒に過ごしてやるよ”
キングは、美奈と気まずくなった私を気遣って、そう声をかけてくれていた。