別れさせ屋に依頼をした私の結末

【マチ、今どこ?】

【今日は暇だし、やっぱり待つよ】

【靴はあるから、まだ学校なんでしょ?】

【ま、いいや。用事が終わったら連絡してー】


返信がなくても待ち続けている美奈。

ありがたいけれど、ここに居ることがわかれば押しかけてくるだろうし、居場所なんて絶対に教えられない。

何時までかかるのかもわからないので下手なことは言えないし……。

どう言えば待つのをやめてくれるのか、と返す言葉で悩んでいると──

「今ならまだ間に合いますよ」

まだ近くにいた相良くんが、ボソッと小声で囁いてくる。

“今ならまだ間に合う”

きっと、相良くんは「今、教室へ戻れば、お友だちもまだ帰っていないのではないか」という意味で言ったのだろう。

けれど、この場にこのままいてもいいのかと迷っていた私は、その言葉を違う意味でとらえてしまった。

相良くんが本を返却しにカウンターへ行った後、私は再び、壁掛け時計に目を向けた。

16時を過ぎている。放課後になって30分経ったのに、別れさせ屋はまだ現れていない。

今のうちにこの場を離れてしまえば、危険な目に遭わずに済むのではないか……。

別れさせ屋にクラスと名前は知られているけれど、SNSのアカウントを削除しちゃえば、たしか、DMのやり取りは消えるはずだ。

SNSのアカウントなんて持っていない。別れさせ屋に連絡なんてしていない。連絡したのは私に成りすました人――そういうことにすれば、全て無かったことにできるんじゃないだろうか。

──“今ならまだ間に合う”?

得体の知れない相手に連絡をしてしまった。後悔する私の手は、再び、置いたばかりのリュックへと伸びる。

だけど、背負おうとしたとき、ここ数週間の出来事が頭の中を過ぎった。
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