逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 ラナは困ったように目を伏せて、
「あの人達はバッハス軍から追われていると言っていたわ」
「追われている?」

「もともと国境の境目に住んでいて、バッハス側に入れられたそうよ。この間バッハスが越境して来たでしょう。それに従軍していたんだけど、この国に剣を向けることに嫌気がさして逃げたんだそうで」

「敵前、逃亡か」

 それは軍規違反でも重罪にあたる行為だ。
「バッハスに追われて負傷して、命からがらここまで来たと言っていたわ。そんな彼らをソフィー様は助けてあげたのよ」

 ああと思った。あのときソフィーは言っていた。
『彼らは体が回復したらそのまま帰ってくれたらいいんだけど』
 
 こちらにはラクレスの負傷兵が大勢いる。
 兵がバッハスの軍服を見たらどう思うのか。
 そんな状態で彼らまで面倒を見ていたのだ。

「いや、なんともすごいお嬢様だな」
 感嘆するように言った。


          * * * * *
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