逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 シュテルツが若いアーロンを振り返った。

 彼はそれを受けて、
「私ももう一つの文書を持参しております。父、アーロンが書いた直筆です」
 と一葉をかざした。

 それには、
『私が持っている最高司令官としての権限、地位、そのすべてを息子であるアーロン二世に託すものとする』

 文末にアーロン固有の花押が添えられている、本人の書であることは間違いなかった。

「この通り二つの文書がある。これを持って、この二世殿がアーロンの権限を継承することに問題がありましょうか。バッハスの動向は急を告げている、この時をしくじれば取り返しがつかないのですぞ」

 迫られて王が困ったように目を伏せた。
 諸侯らも黙然と互いを見交わしている。

 やがて、
「とにかく誰かが先頭に立ってバッハスに対峙するしかないのだ」
「そうだ、今はこの若者にかけてみようではないか」
 会場からそんな声が起こった。
 
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