逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 無人のラクレス邸はひっそりしていた。

 ソフィーは鍵で扉を開けると、
「ちょっと待ってね、印鑑は二階の父の書斎にあると思うから探してくるわね」
 階段を上がっていく。

 その足音が遠ざかってからアーロンは二人に向いた。
「ガイにセルビィ、話してほしいことがあるんだが」
「はい」

「あの夜のことだ。ラクレス公が行方不明になったあの夜のことを、現場にいた君たちに聞いておきたいのだ」

 ガイがうなずいた。
「あの夜は私とこのセルビィは、ラクレス公から用を言いつかって(とりで)に行っていました」
「砦に?」
「そうです。公は、砦の周囲にバッハス兵が出没しているという情報がある。そこに偵察に行ってくれないかと言われました」
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