逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 ラクレス家の居間に月の光がさしていた。

「なるほどね、温存したかったんだ、君の父上は」
 ア―ロンがポツリと言った。

「温存って、それはあなたが、アーロン様が言った言葉ですよ」
「ああ。言っていて腹が立った、なぜなんだと思ってね」

 ソフィーはその目をじっと見て、
「なぜ、なんですか」

 アーロンがふっとため息をついた。
「俺は、その、自分が自分で分からなくなっている」
「え?」

「この若い体だ。これが本当に今の俺なのかと」
 唐突に語りだした。
「まだ、自分でも信じられないんだ」
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