逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「一人だけ?」
「帰らなければならないのです、すぐにでも」
「帰るって、どこへ行くというのだ、こんな時間に」
「山です。いえ、詳しくは言えないのですが」
「やま? それは一体どこの山なんだ」
「・・・・」

「誰かが待ってでもいるのか、その山に」
「彼らが私を待っているのです、大勢の男達が、今か今かと首を長くして」
 意外な返事だった。

「お、男達ですって? 今か今かですって?」
 侍女長が裏返った声を出す。

 アーロンはじっと見ていたが、
「それなら仕方ないだろう。ただし一つ条件がある。うちの者をつけることだ」

 夜はとっぷり暮れていた。
「山へはこの男を連れて行け。ヴェンという男だ。彼を目的地まで連れて行け」
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