逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 グリント―ル国のグリンドラ王は健啖家だった。
 毎日極上の前菜を、大盛りの主食を、大量の酒を飲む。そして幸せそうに微笑む。

 世情が変ってバッハスの脅威が王宮にも伝えられるようになった。
 王は首をひねって、そんなことはないだろうと答える。そんなときも笑みを崩さなかった。

 そのグリンドラが崩御したのは、些細なことだった。

 一粒種の王子に誘われるまま庭に出ていた。
 王は昼間から酒を飲んでいた。いい加減酩酊していた。
 それなのに、かけっこをしようと言われて即座に応じた。いつもの日課だった。

 炎天下で、常人でも息が上がるというのに王は駆け続けた。

 ゆるい坂を上っているとき、急に胸を押えて倒れた。
 目を剥いて苦悶の色を浮かべた王は、もう息をしていなかった。

 心臓発作だった。
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