逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 王子と遊んでいるときだけが楽しかった。
 かけっこをしていると息が上がって苦しくなる。だがハアハアとやっていると酔ったような心持ちになる。

 何かに自分を預けられ陶酔した状態になる。少なくとも、そのときは自分をさげすむ臣下の目はなかったのだ。

 そんな心情を王は細かい字でびっしり書き込んでいた。
 意外な一面だった。

「・・相談なさる方が居ればよろしかったのです」
 葬儀が終わってシュテルツが言った。
「これはどうすればいいのか、と相談する方が」

 だが前王に厳しくしつけられた王だった。
 賢王と名高い父のもとに生まれ、育つにつれて自分の愚直さを見抜かれていった。どうしようもない焦燥感に苛まれ続けたのだ。
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