逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 この国、グリントールの王宮は広い敷地に大小の建物がある。
 中央は王族の塔、それを囲んで東は政務、西は国軍が在する造りになっていた。

 その政務室で、二人の高官が向き合っていた。

「だからバッハスとの国境に国軍を送るべきなのだ」
「確かにそうだ。この間は紛争が起きてラクレス兵が負傷したそうだな」

「怪我を負ったのは四十人余りだ。半端な数じゃないぞ」
「ああ」

「だからすぐに国王に承認をもらってくれ。そうすれば俺が国軍を率いて出陣できるんだ」
「まあ落ち着けアーロン」

 彼らは共に五十がらみだが、片方は好々爺、
「これが落ち着いていられるか、国の存亡がかかっているんだぞ」
 片方はまだ青筋を立てる熱血漢だ。

「国王には何度も出兵要請をしているのだ、しかし」
「うんと言わんのだろう」
「・・・・」

「あのぼんくらが! この国を潰すつもりか、あの愚王が」
「そんなことを言ったら摑まるぞ、不敬罪で投獄されるではないか」

 止めようとしたのはこの国の宰相のシュテルツ。
 食って掛かっているのは国軍の最高司令官アーロン・ハインツだ。

「バッハスはこのグリントールを狙っている。それなのに何の手も打たないのか」
「だが国境に兵を送るには確かな証拠が必要なんだ」

「それを掴むためにも行動を起こすべきだろうが」
「だから上部の意見がだな」

 喧々囂々の声はいつ終わるともなく続いている。


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