逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 ソフィーはそれを見ていた。
 ふと何かに気付いた。
「ラクレスの・・、かたがた?」

 アーロンは敬語を使ったのだ。
 それはここにいる負傷兵だけへの言葉だろうか。

 彼は軍の最高位の身分だ、負傷兵のそれとは比べるべくもない。しかし今は敬語を使っていた。

 それは何かの意味があるように思えた。

 言外に、ダン・ラクレスに向けて言ったのではないか。ラクレスの領主であるソフィーの父、そこに想いを込めたのではないのか。

『お父上の無念は、必ず晴らしてみせる!』
 と。

 アーロンはじっとソフィーを見ていた。
 そしてうなずいた。

 熱いものがこみ上げてくる。
 顔を上げてはいられなかった。
< 223 / 477 >

この作品をシェア

pagetop