逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ

　アーロン邸では次々とカーテンが閉められている。

「それにしてもおかしな娘さんだったわね」
「本当ね、突然アーロン様にお金を貸して下さいなどと」

　侍女が手と同じ速さで口をも動かしていた。

「あの娘さん、自分でラクレス家の令嬢だと言っていたけど、本当でしょうか」
「ラクレス領はきな臭い噂が立っているわ。領主のダン・ラクレス様が行方不明になったとか」

　彼は国境警備の領兵の元に行っているはずだった。
　それが最近姿が見えないとの噂が立っているのだ。

「ラクレス様って、あのソフィーという娘さんの？」
「お父上よ」

「でも、さっき彼女はそうは言わなかったわよね」
「事情があるのかも知れないわ。ラクレス領はバッハスと国境を接していて難しい事があるらしいから」

「でも我が国とバッハスは同盟を結んでいるんじゃないの」
「それがバッハスは最近代替わりしたでしょう。それから気になる事があるらしいわ」