逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
新たな出発
 洞窟が静まっている。    

 きのうまで歓喜に湧いていた。
 バッハスの侵攻を止めて勝利したとの報が入ったからだ。
 
「さすがはアーロン様です、湖を決壊させると聞いたときは絶句しましたが」
 ヴェンが感極まったように言う。

「あとは戦後処理ですね。ある意味これはなかなか難しい仕事だと聞いています」

「国内の戦禍はもちろんだし、こうなってしまったバッハスとの交渉も大変でしょう」
「それに今は国王がいません。アーロン様とシュテルツ様に重荷がかかるはずです」

「だったらアーロン様は当分ここには?」
 ソフィーの顔が曇り、
「すぐいらっしゃいますよ、あなたを迎えに」
 ヴェンが執りなすように言う。

「でも心配なこともあります」
「え?」
「敵の残党です、バッハスに帰るためこの山を通るでしょう。時間的にもここ数日が危ないんです」

 そのためにアーロンは側近の部下四十名を残してくれた。
 彼らが周囲を警戒してくれているが。
  
「しかも今度は敗残兵だ、自暴自棄になって何をするかわからない。おまけに往路でこの洞窟の存在を知っている兵がいるんだ。彼らの仲間がそれを知ったら相当危険な事になるんです」
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