逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 その視線の向こうにマリンドウ親子の姿がある。
 王子は実父に抱かれて満面の笑みだ。

 その変わり身の早さというのか、あ、いや、機転の優秀さというのか。
 声も出なかった。

 幼子を抱き上げた父、抱き上げられた子は、誰が見ても親子とわかるほど似通っている。そして今までの距離などなかったように情を交わし合っている。

 臣下一同は頭を抱えた。状況について行けない。

 今まで自分らはいったい何を守って来たというのか。隣国の王子を、我が国の一粒種だと信じて、命を懸けてきたのか? 
 あのちっぽけな五歳の幼児のために? いや、まあ王子の命はそれはそれで大事だろうが。
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