逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「重傷者はそれなりの施設で看護する必要がある。しかしそれはお前の領分だ」
「ああ、それは分かっている」

「その間に俺は別の用件があるんだ」
「別の用件だと? なんだ、それは」
「いや、まあ、それはそれなりの」
 言いさして口ごもる。

 アーロンは追及されるのを拒むように顔をそむけた。
 そのまま腰を浮かせて退出しようとする。

「あ、一体どこへ行くというのだ、こんなときに」

「湖だよ、山の湖だ。あれほどの規模で決壊させたのだ、その後始末が必要だろう」

「また湖だと? お前はいったい何度あそこへ行けば・・」

 言いかけたシュテルツの声は空しかった。

 アーロンはあとも見ずにとび出していた。
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