逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「そんな! だったらここはどうなるの」
「だからこそ一刻も早くソフィー様を連れ出したほうがいいんです。負傷兵や侍女も含めて全員をね」

 ヴェンの言う通りだった、ここら一帯は大きな危険をはらんでいる。

「洞窟を出るって? 出てどこへ行けばいいの、元のラクレス邸に戻れというの」
「いや、あそこは敗残兵の通り道です。だからこの洞窟よりもっと危険なんだ」

「だったらどこへ行けと言うのよ、負傷兵は大勢いるのよ」

「うん。でもまあ、・・何とかなるでしょう、たぶん」
 詰め寄られて頭をかいている。

「あなたねぇ、さっきは危ないって言ったでしょう。なのになんだって急に」

 そのヴェンは洞窟の入口を見ていた。
 数人の影が近づいている。

「ほらね、言った通りでしょう、すぐに迎えに来るって」
「えっ?」

 そこには、側近を従えて入って来るアーロンがいた。
「ソフィー、今すぐここを出られるか」

「今すぐ、ここを出るって」

「負傷兵が気になるのだろう。大丈夫だ、彼らも引き取るつもりでいる。それで屋敷を改装しているのだ」
「でも彼らは大勢なのですよ。いくらあなたのお屋敷が大きくても無理なのでは」

「それは考えてある、今日は君だけだ。負傷兵は明日迎えに来ることになっている。日暮れまでに山を出たいのだ。山道は足場が悪いからね」
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