逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 洞窟の出口にソフィー用の馬がいた。

「気をつけてくれ」
 手を貸して馬上に乗せながら、
「あ、いや要らぬ心配だったな。ソフィー様は乗馬も凄腕だ。何しろあのガイやセルビィが教えたのだからね。確か手鶏足取りだったな」
 そうだろう? と笑う彼に、
「もう、なにを言っているのですか」

 出口に負傷兵が来ていた。
「待っていろ、すぐ迎えに来る、あと少しの辛抱だ」
 アーロンの声に兵が手を振る。
 それにソフィーが振り返した。

 思い入れのある場所だった。
 ラクレス邸を出てここに基盤を置いた。
 兵と寝食を共にし、敵の奇襲を躱してきたのだ。

 そんな洞窟が遠ざかって行く。

 一行はスピードを上げ、周りの山々が矢のように過ぎて行った。


 まもなく王都に入った。 
 しかしアーロンの屋敷とは違う道に進んでいく。
 
「この道は? いったいどこへ行くのですか」

 振り向いたアーロンは笑っていた。
「いいから、このまま俺について来てくれ」

 目的地に近づいたのだろう、馬はしだいに並足になっていた。
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