逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 ソフィーは改めて二つの肖像画を見た。
 デューク・レブロン像は神々しいほどの威厳がある。

 かたやベアトリス嬢は・・。
 すっと通った鼻筋に微笑みかけた唇。その深く澄んだ蒼い瞳は息を呑むほど美しい。左右対称な面立ちは文句の付けようがない完璧な造形だ。
 
 そしてそれには既視感があった。
 隣にいるアーロンだった。

 心のどこかが揺れて戸惑った。

「私は、本来ならばアーロン殿の臣下の筋なのです」
 シュテルツが続けると、
「しかしそれは昔の話だろう」
 ベアトリスに酷似した男がいう。
「今やシュテルツは一国の宰相の地位にある。それが今になってなぜそれほどへりくだっているのだ」

「潮時が、来たのだと思いますよ」
「しおどき?」

「はい、時流とも申します。本来の姿に戻るときが来たのだと」
 
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