逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 彼はソフィーに向き直ると、 
「先ほどお話した通り、デューク様には後継者がいませんでした。そこで当時の部下だった私を次の宰相に指名されたのです」

 シュテルツは、臣下の自分が政務の長に立つだなどと、と辞退した。
 その意志が強かったので、デューク・レブロンは一つの案を出した。

 ハインツ家に嫁いだ娘に二人目が生まれたら、レブロン家にもらい受けよう。その子を次の宰相にする手があるのだと。
 それまで君が宰相を務めて、その子に引き継いでほしいのだと。

「しかし、ベアトリス様は最初のご出産で体調をくずされまして」
 ア―ロンが生まれて三年後に逝去したのだ。

「だがまだ望みはあると思いました。アーロン殿が結婚してそのお子様にレブロン家を継いでいただこうと。それならばデューク様のご遺志を叶えられるのだと」
 しかし、と彼はここでひと呼吸おいた。

「この方は一向に嫁をもらおうとはせず、いやヤキモキさせられました。私はもう駄目だと思っておりました。お互い五十の歳を迎えることになったからです」

 アーロンはそっぽを向いている。
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