逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「でも彼らはラクレス領の兵です。その準備のためになどと、そんなご迷惑を」

「レブロン邸へ来るのは我が屋敷の出入りの業者です。だから私が行った方が早いのです。ソフィー様はここにご滞在くださいませ、アーロン様とご一緒にです。この方はあなたを一時も離さず側に置きたがっている様子ですからね」
 そうでしょう、とからかうようにアーロンを見る。

「お前はこの場でなにを」
「違うのですか」
「いや、違いはしない、かもしれないが」

 歯切れの悪い主人に笑いを噛みしめる。

「いいから、もう早く行け!」
「はいはい」

 彼女は馬車に向かおうとし、その足がはたと止まった。
「ああ、申し遅れましたが」
 隅にいた侍女に目をやって、

「あの者がソフィー様お世話係になっております。当屋敷に長く勤めていますので勝手がよろしいかと存じます」

 哨戒されたのは三十過ぎの女だった。
「エレナと申します。よろしくお願いします」
 
 うやうやしく礼をする。だが顔を上げたときの目が一瞬泳いだ。
 
 え、となぜかそれが気になった。


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