逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 ソフィーは毎日レブロン邸に通っていた。
 負傷兵は手厚い看護を受けて穏やかになっていく。そんな様子を見るのはうれしいことだ。
 日中はそこで手伝って夕方になるとアーロン邸に帰る。

 そんなある日のことだった。

 馬車から降りて自室に行こうとした。
 と、植え込みの影から声を掛けられた。
「おい、お前」

 黒いヒゲの男だった。
「侍女のエレナを知らないか。呼んでほしいんだ、今すぐここへ」

「あなたは、いったい?」
 ハインツ邸は塀をめぐらして門には見張りが立っている。
 用がない者は立ち入れないはずだった。

 男がそれを察して、
「俺は通行証を持っているのだ、この通りな」
 邸に出入りする商人の通行証だった。発行人はエレナになっている。
 
 屋内に入ってエレナを呼んだ。
 男の風体を告げると顔色を変えた。返事もせずに駆け出して行く。

 何かがありそうに思えた。
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