逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「おい、早く歩け!」
 ギースがせっついてくる。
「この調子だと屋敷に着くのが夜になってしまうぞ」

 さっきまでの口調がガラリと変わっていた。
 明らかに横柄になったのは自宅が近づいているからだ。
 これからケイネ邸へ行く。そこでの出来事が察せられた。
 覚悟が、必要だろう。

 そのとき馬の蹄が聞こえた。

 対岸の道に騎馬の一団が近づいている。
 群青の軍服はグリントール王宮直属の兵だ。ピシリと姿勢を正し隙のない手綱さばきが鮮やかだった。つい見入ってしまう。

 すると先頭の騎士も気付いたのかこっちを見た。五十がらみの高官のようで、眼光が鋭く射抜かれる圧を感じた。
< 3 / 466 >

この作品をシェア

pagetop