逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 ソフィーはレブロン邸から帰って来た。

 予感がして植え込みの陰を見る。
 あの髭の男がいた。
 
 またエレナを呼んでくれと言うのだろうか。
 しかし、
「今日はエレナじゃない、ほかの人を呼んでもらいたいんだ。最近この屋敷に来た若い女性だ」
「若い、女性?」

「ソフィー・ラクレスという。あのラクレス領のご令嬢だよ」
「・・!」

「悪いようにはしない。そのお嬢さんと懇意にしたくてな」

 邸内に走り込んだ。エレナに、
「また髭の男が来ているわ。今日はソフィー・ラクレスを呼んでくれと言ったのよ。でも私を見ても本人だとわからなかったわ」
「え!」
「なぜ私の名前が出て来るのか教えて欲しいわ」

 エレナは絶句していたが、
「あいつはラプターという男よ。外へ使いに出たとき声をかけられたのよ。そこの店に入らないか、甘い物をおごってやると言って」

「それであなたはついて行ったの? そんな初対面の訳の分からない男に」

「退屈だったから。何か面白い話があるのかと思って」
 どこか不貞腐れたようにいった。

 そしておずおずと外へ出て行った。


          * * * * *
< 301 / 477 >

この作品をシェア

pagetop