逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 明け方だった。
 部屋がうすぼんやりしていた。

 なにげなく身じろぎして、え? と思った。
 ベッドの向こうに、人影がある。
 一人で寝るのには広すぎるベッドだった。だからソフィーは半分ほどの場所で寝ている。

 その朝ぼらけの中に違和感があった。

 部屋は施錠したはずだった。もしものために合鍵を持っているのは執事と侍女長のリズと、そして・・。

 息を詰めてその人影を見た。
 ア―ロンだった。
 夜中に王宮から帰って来たのだろう、上着を脱いだだけでベッドにたどり着いたように見えた。

 窓から明けはじめた光が射し込んでいる。
 アーロンの濃い金髪がシーツに乱れかかっていた。その艶やかさに息を呑む。

 精悍な風貌と無防備な寝姿とが微妙に交錯する。

 隣には彼の部屋がある。そこにも自分のベッドがあるはずだった。
 しかしここの、ソフィーの側で寝ていた。

 それだけで胸が熱くなった。
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