逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 アーロン様、とつぶやいてみる。
 彼はぴくりともしない。
 どこからなのか微風があった、それが彼の髪を揺らしていた。
 思わず手をだして触れようとした。

 ・・と。
 手首をつかまれた。ぐいっと引き寄せられる。
「っ! アーロン、さま?」
 彼は薄目を開けていた。
 ニヤッと笑うと、
「君は、おそうつもりなのか」
「え?」

「ねこみを、俺の寝込みを襲うつもりだったのか」
「そんな! 襲うだなんて、わ、私がそんなことをするはずないでしょう。あなたに危害を加えるなんて」
 むきになって答えた。

 しかしまだ彼は睨んでいる。
 鋭い眼光だった、その圧に身がすくんだ。
 思わず後ずさりする。

 追ってくる蒼い目をひとつずつ交互に見た。
 それほど彼は近づいていた。
 
「望むところだ、君に殺されるなど。寝首をかかれても本望だ」
「っ!」
 シーツを抱いてまだ逃げようとしている。
 
 たまらずアーロンが吹きだした。
 耐え切れないように大笑いになる。腹を抱えて涙さえ滲ませていた。
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