逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「その、侍女のエレナです。ここ数日姿が見えなくなっていて」
「姿が見えない?」

 はい、と言って口を押えた。
 こんなことを言うつもりは無かった、さっきの瞬間に思考が飛んでしまっていた。

 王宮で疲れているアーロンに侍女の話まで、と後悔する。

「侍女のエレナがどうしたのだ」

 彼は眼前まで来ていた。
 その肌をまだ水滴がしたたっている。目つぶしのように煌めいて見えた。

「そ、そのぉ、ラプターが、ひげの男が」
 そう言ってまた口を押える。

「ラプターだと、それは誰なんだ?」
「い、いえ、私も詳しくは知らなくて」

 あわてて逃げようとするも、
「それはただならなぬ名前だな。別名で、猛禽という意味だ」
 肩を押さえられた。
「は、はい、そうなのですか。え? もうきん?」

「そうだ、非常におとなしくて穏やかな名前だよ」
 ニヒルにわらっている。

 万事休すだった。
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