逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 別宅のドアが開いた。
 中からソフィーが現れる。
 純白のドレスに身を包んだ彼女は息を呑むほど美しかった。

 リズに介添されて、石畳の上をゆっくり歩いて行く。

 その両側にはハインツ邸の使用人がずらりと並んでいた。
 執事を筆頭に家令や用人、ソフィーの警護役だったヴェン、そして大勢の侍女や下僕、屋敷の警護兵や庭師。果てはアーロンの側近の騎士らもいた。

 彼らは花嫁が進む速度に合わせて次々に会釈していく。それが伝搬して波のように続いていた。
 侍女らのため息が漏れる。
「おめでとうございます」
 言いようのない歓声も混じっていた。

 本邸の玄関に、礼服をまとった麗人がいた。

 ホワイトグレーの、目が覚めるような衣装に身を包んだアーロンだった。その彼がソフィーに微笑みかけている。

 ふだんあまり飾らない彼の、息が出来ないほどの姿だった。
 光沢のあるジャケットが鮮やかで、その内側にやや濃いウエストコートを着込んでいる。胸元には同系色のタイが締められ、すらりとした上背に礼服がピタリと決まっていた。そして端正な顔で微笑んでいた。

 ア―ロンがソフィーを抱き寄せた。
 その肩先に顔をうずめる。

 その途端、周囲のため息が漏れた。それが次には歓喜に代わった。
 ワーッという声が辺りを包む。

 家人らが心を込めた式が、いま始まろうとしていた。


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