逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 家人の中にソフィーの姿があった。

 出発が迫っていた。
 アーロンが側に歩み寄る、そして肩に手を差し伸べた。

 その陰で、
「・・帰って来てください」
 ささやくような声がした。
「必ず、帰って来てください。どうぞご無事で」

 見上げた目が濡れている。大粒の涙があふれていた。

「泣くな」

 ソフィーがすがり付いてくる。
 これほど大勢の前で彼女らしからぬ行為だ。
 たまらず抱きしめた。

 辺りにはなんの音もしない。
 ただ静寂のときだった。

 ア―ロンが懐を覗き込み、ソフィーが顔を上げる。

 彼女の瞳をじっと見た。そして一つの封書を取り出した。
「あとで見てくれ。今の俺の気持ちだ」
「え?」

 ア―ロンが微笑んだ。

 一歩あとに退く。
 そのまま踵を返して騎乗した。

 先頭が号令をかけ、一団が出発していく。
 それはたちまち点となり、大門の外に消えて行った。
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