逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「お帰りになりました、アーロン様ご一行が、たった今」
 門番が駆け込んで来る。
 ソフィーらが庭に走り出た。
 やがて騎乗したアーロンが見えて来た。

 彼は外套を深く着込んでいる。右腕だけを袖に通した姿で手綱を取っていた。

 ソフィーを見かけて笑いかけた。
「ああ、帰ったぞ」

 ソフィーは家臣の目をもろともせず馬上の彼に両手を挙げ、アーロンが上体を倒して抱き抱えた。

 ソフィーはなにかを言おうとする、しかし喉に詰まって声にならない。
 ア―ロンの袖に顔をうずめたまま、
「もう止めてください、あんなお手紙を書くなどと」
 嗚咽の間にささやいた。
「どれだけ辛かったかわからないでしょう。あなたにわかる訳はないわ」

 リズが二人に近づいてくる。
「ソフィー様は、毎日泣いていたのですよ」
「・・毎日?」
「はい、朝から晩まで。つらいと言って」

 アーロンはじっとソフィーを見た。
 そしてもう一度抱きなおした。
 その抱く腕が右手一本であることを、その時の彼女は気がつかないでいた。

 アーロンは執事を呼ぶと、
「先に馬車が到着したはずだが」
「はい、裏庭に馬車ごと待機させております」
 どうしたものでしょうか、と聞いてくる。

 アーロンは馬から下りた。片腕だけで器用な下り方だった。
 ソフィーに腕を回して歩いて行く。
「俺たちは一度王宮へ行って報告していたから、馬車より遅くなったのだ」
「馬車、ですか」

 なんの話だろうという彼女に、ふっと笑ってみせた。
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