逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「なんだいきなり、急用だというから無理をして来てやったんだぞ」
 恩着せがましく言う。

「大した事ではないのです。ちょっと話をしてみたくなりまして」
 笑っている頬がこけている。顔色もどこか土色に見えた。

 アーロンはわざと快活そうに、
「ちょっと話してみたいぐらいで呼び出されたらたまらないな。何しろこっちは・・」
「新婚なのでしょう?」
「そうだ、わかっているなら」

「ソフィー様はいかがですか。ハインツ家でお元気に過ごしているのでしょう」
「屋敷のことを覚えようと一生懸命やってくれている。これ以上ない妻だと思っているよ」
「おのろけですな」
 ハハハ・・と笑ったあとで、
「今日は、折り入ってお話があるのです」

 その先がわかってアーロンが黙り込む。

「もう一刻の猶予もないと思います。最後の話になると思って聞いてほしいのです」
 ア―ロンは黙って椅子を引き寄せた。

「お察しの通りこの国の長、国家元首についてです。率直に言います、このグリント―ルの頂点に立っていただきたいのです」

 シュテルツをじっと見た。
 見つめ合ってしばしの時が過ぎる。
「なにを言っているのだ、俺が王座に就くだなどと」
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