逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「この間のセンダの惨状を(じか)に見たのでしょう。兄弟王の争いは熾烈だった。その通り、国の頂点に立つ者の動向で国が滅びてしまうのです。下にいる民は憐れなものだ、自分ではどうすることもできない、そうやって理不尽な治政で傷つき命を失っていくのです」
「・・・・」

「ひるがえってこの国はどうでしょう。今の諸侯に国を任せられる者がいるのか。誰もいない。それはセンダへの使者を選考する時にもわかったでしょう」

 懸命に話していた。
 話し続けることで体力が消耗される、それがわかっても止める事が出来なかった。
 彼の固い意志を感じたからだ。

「日和見で追随する者は数多(あまた)いる。だが真の指導者はいないのだ。そんな状態であなたはこの国の先達を投げ出せるというのか。このまま稚拙な長に任せたならば、国の衰退は火を見るより明らかだ。そんな混乱への道を傍観すると言われるのか」

 シュテルツは骨が浮いているように見える。
 だが声には力があった。
 まるでアーロンに掴みかかってくるかの迫力を秘めている。

「この国のために、グリント―ルのために、真の指導者が必要なのです」

 自分の命を削って訴えている、それが痛いほどわかった。
 しかし、だからと言って即答できるような問題ではまったくない。
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