逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 医者が包帯を巻いていた。
 レブロン邸に通っている彼は、アーロンの治療にこの屋敷に立ち寄っていた。
「あとは傷がふさがるのを待つばかりです。裂傷はありますがそう深手ではありません」

 そんなやり取りをソフィーが心配そうに見つめている。

「このあと、君は王宮に立ち寄るのか」
「はい、シュテルツ様の怪我も見せていただいていますので」
「あいつの具合は?」
 医者は困ったように口を閉じた。
 ア―ロンも押し黙る。

 ゆっくりうなずいてから、
「そうだ、王宮に行ったらオルグらに言っておいてくれ。俺は重傷でしばらく出仕できないと。家にこもって傷を治す必要があるのだとな」
「はあ? わたしに嘘を言えと。アーロン様のお怪我はもうすぐ治りますが」

「そんなふうに言ってくれればいいのだ。そしたらこの屋敷でゆっくりできる、なにしろ俺らは新婚だからな」
「はいはい、そう申しておきますよ。新婚の方はすぐには出仕できないとね」
「おいっ」
 親友のような口を利く医者は笑って屋敷をあとにした。
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