逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 シュテルツは窓の外を見ていた。

 風が吹いて長く垂れたツタが揺れている。
 だがそれは不思議な動きに見えた。

 壁に沿って動く左右の揺れ方ではない。縦方向に向こうから近づき、後ろに下ってまた近づくという。

 ここは宮舎が林立している場所だ。すき間風に翻弄されているのか。
 まるで自分の意思を持ったように? いや、まさか。

 何かが近づいて物言いたげな、そんな不思議なものを感じた。

「・・あなたは、今、そこにいらっしゃるのですか」

 昼下がりの少し気だるい、時が止まったような、そんな時間だった。

「アーロン・ハインツ様がいらっしゃいました」
 用人が告げた。

 入って来たアーロンを見た。
 やはりあの方に似ていらっしゃる、胸のうちで思った。
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