逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
グリントール新国王
 目の前に鮮やかな衣装が並んでいた。
 ハインツ邸にあるベアトリスの衣裳部屋に彼女が残したドレスがある。

 この間のウエディングドレスは中央に、そして格式高い礼服から普段着まで多くの服が収納されていた。

「ここでずっと手入れをしているのですよ、虫干をして色あせはないかとか」
 リズが感慨深げに話す。

 ベアトリスが亡くなって五十年近く。しかしまるで古びた様子はなく目を奪う品だった。色合いからデザインを見ていると彼女の好みが伝わって来る、その人柄に触れる気がした。

「でもやはりこのウエディングドレスは圧巻ですね。あの日は最高のお式になりました」
 改めて見てもため息のでる逸品だった。これに身を包んでアーロンの横に立ったのだ。

 そして、え? と思った。

 そんな第一級品の奥に、目を引く一着があった。
 若草色のチェッカード柄のドレスだった。

 見入っているソフィーに、
「ベアトリス様のお気に入りだったそうですよ。いつもお召しになっていたと聞いています」

 ・・あの、とつい口にした。
「これはときどき私が使わせていただいても?」
 と言ってから、
「アーロン様の許しをいただけたらですけど」

「よろしいですとも! きっとベアトリス様もお喜びになります。そういえばお体のサイズもほとんど同じなのですね。結婚式のとき、このウエディングドレスを手直しすることなくお召しいただけましたもの」

 いまソフィーは二十歳、彼女が輿入れしてアーロンを産んで、という年齢と重なっている。そう思うとなにか惹かれるものを感じた。

 ア―ロンの快諾を得て、その日からときどきこの衣装に身を包んでいた。


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