逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「ぶしつけな発言をご容赦いただきたく存じます。ここにおられるのはアーロン二世殿、この間までおられたアーロン一世殿のご子息です。しかしありていに言えば隠し子だとお聞きしています」

 小さなざわめきが起こった。

「そうだとしますと、そのお母上様はどなたでしょうか。無礼を承知で言えば、ちまたでは場末の女給とか申す者もいます。また一部の噂ではありますが、その、娼館のいわくつきの女だとも耳にしました」

 アーロンは平静を装っていた。しかしその無表情が内面を物語っている。

「これは問題だと思うのです。マリンドウを始めとして諸外国への体面もあります。そんな意味でも次期国王の出自は重要だと考えるのです」

 シュテルツが息を止めた。
 思わぬ方向から(やいば)が飛んできた気がした。

 アーロンの生母は間違いなくベアトリスだ、この国の二大臣下のレブロン家の由緒正しい令嬢だった。
 だがここにいるアーロンはベアトリスが生んだアーロン一世の、その息子ということになっている。母親が誰かと聞かれても答えることが出来ないのだ。

 あの衝撃の出来事があった。
 ワイトという正体不明の男がアーロンを若返らせたことだ。あまりに奇想天外で度肝を抜かれた事件だった。

 しかしそれをガイゼルに告げる訳にはいかない。

 アーロンを見た。
 目を据えて沈黙している。
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