逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 シュテルツは頭を抱えていた。

 昼を挟んで、大会議場に諸侯が顔をそろえている。
 しかしいつまで経ってもア―ロンが姿を見せないのだ。

「ハインツ殿はまだ来られないのですか」
 その質問を何度受けたことだろう。そのたびに「間もなく」とかわしてきた。

 会場に雑談が起こっては消え、何度か咳払いが響き、あとは空白が支配する。
 その沈黙がしだいに突き刺さってくる。

 気がかりはもう一つあった。
 ア―ロンのみならず、配下のオルグもいないのだ。
 無断で姿を消すなど無かったことだ、この大事にどこへ行ったのか。

 ほんのわずかだが心当たりがあった。
 彼は事務作業でもさり気なくシュテルツを助けていた。
 困難な物件が生じたとき、絶妙の(すべ)で打開することがあった。そして成果を得てもとぼけたように机に向かっていた。

 そんな彼の不在にどこか期待するものがあった。
 しかし目前の事態はオルグの手に負えるものではない、それも分かっていた。

 時間が途方もなく過ぎていく。
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